師匠の背中
ワシの師匠は、
非常に細やかで、丁寧な仕事をする。
ワシの師匠は、
絶対に人の悪口や、陰口を言わない。
ある日の、昼下がりの午後…
お店のドアが開いた、
「いらっしゃいませェ〜!!」
(あれ…ッ!?)
入って来られたお客様は、午前中にカットしたはずの、中学生の男の子だった…
お母さんに連れられて、バツの悪そうな顔をして立っていた…
『ここのお店は、こんなカットをするんですか!!!』
と、凄い剣幕のお母さん…
男の子の髪を見ると、午前中に綺麗にカットされた髪は無惨な姿に…
明らかに、師匠のカットのままではない…
『こんな酷いカットして!!!ちゃんと直して下さいッ!!!』
お母さんは、怒鳴り散らした…
(い、いやッ…でも…絶対に後で何かしとるじゃろぅ…)
僕らがマゴマゴしていると、
師匠の奥さんが、少しムッとして
「スイマセンが…コレはウチのカットじゃぁ…」
と、言い終わらないうちに
「どうぞぉ〜スイマセンでしたぁ!!!」
優しい声で、師匠
チョキ♪チョキ♪チョキ♪と、綺麗に直していった…
その間ずっと文句を言っているお母さん
そして、綺麗に仕上げて
「スイマセンでしたネ!!また来て下さいネッ!!」
と、爽やかな笑顔で見送った…
後片付けをしている師匠は、特に何も言わない…
スタッフル−ムでは、師匠の奥さんが目を真っ赤にして泣いていた…
「悔しいッ!!!ウチの旦那は、絶対にあんな仕事せんッ!!!
じゃけど…あの人が、何にも言わんのんじゃけぇ…ウチが言えるはずがないッ!!!」
その中学生の男の子の髪の切られ方からみて、誰かにやられたんじゃろう…
イタズラかもしれんし、
イジメられたのかもしれん…
中学生くらいの男の子じゃったら、それを言いたくなかったんじゃろうけん、
結果、師匠のせいになったんじゃと思う…
師匠は、そこまで考えて黙ってカットしたんじゃと思う…
で、その中学生の男の子が、
又、来やすいように笑顔で見送ったんじゃろう
師匠は、何も言わない…
けど…
師匠の背中をみて育った僕ら弟子達は、
そんな師匠を誇りに思っています…
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